自社株評価の見直しの流れ|非上場株式の相続税評価ルール改正のスケジュールと事業承継への影響

2026年4月、国税庁は非上場株式(取引相場のない株式)の相続税評価ルールを抜本的に見直すための有識者会議を開始しました。実に約60年ぶりとなる大規模な見直しであり、中小企業のオーナー経営者にとっては、将来の相続税負担や事業承継対策の前提が大きく変わる可能性がある重要なテーマです。今回は、自社株評価の見直しがなぜ行われるのか、どのような流れ・スケジュールで進むのか、そして事業承継にどのような影響が及ぶ可能性があるのかを解説します。

※本記事の内容は2026年8月時点の報道・公表情報に基づくものです。制度の詳細は今後の税制改正大綱等で正式に決定されるため、最新情報は国税庁や税理士に確認してください。

なぜ今、自社株評価の見直しが行われるのか

非上場株式の相続税評価は、現在「類似業種比準方式」「純資産価額方式」「配当還元方式」という複数の方式を、会社の規模や株主の立場に応じて使い分ける仕組みになっています。今回の見直しの背景には、会計検査院の指摘などを通じて明らかになった、次のような問題点があります。

第一に、評価方式間の著しい格差です。類似業種比準価額の中央値が、純資産価額の中央値の約27%程度にとどまっているとの分析があり、同じ会社の株式でも計算方法によって評価額に大きな開きが生じている実態が指摘されています。第二に、配当還元方式の還元率(10%)が1964年の設定からほぼ据え置かれたままであり、現在の金利環境と乖離している点です。あわせて、評価対象となる非上場企業の8割超が配当を行っていないとされ、実質的に限られた要素だけで評価額が決まりやすい構造になっていることも問題視されています。第三に、無議決権株式やグループ法人税制などを利用して評価額を意図的に圧縮するスキームが横行しているとの指摘もあり、こうした状況を是正することが今回の見直しの主な目的とされています。

現行の評価方式のおさらい

見直しの内容を理解するために、現行制度をおさらいしておきましょう。株式を取得する相続人が会社の経営を支配できる「同族株主等」に該当する場合は、原則的評価方式が適用されます。原則的評価方式では、会社の規模(大会社・中会社・小会社)に応じて、上場している類似業種の株価を基準に配当・利益・純資産の3要素を比較する「類似業種比準方式」、会社の純資産額をもとに評価する「純資産価額方式」、またはこれらを併用する方式のいずれかを用います。一方、経営への影響力が小さい少数株主が取得する場合は、配当金額を基準とする簡便な「配当還元方式」を用いることができ、一般に評価額は低くなる傾向があります。

見直しの流れとスケジュール

報道等によれば、見直しはおおむね次のような流れで進むとみられています。まず2026年4月20日に国税庁の有識者会議(検討会)が始動し、評価方式の問題点や改正の方向性について議論が行われています。2026年内をめどに検討会での議論が一定程度取りまとめられ、その内容が2026年12月頃に公表される令和9年度税制改正大綱に反映される見通しです。その後、2027年にはパブリックコメント(意見公募)などの手続きを経て詳細が固められ、実際の新ルール適用は2027年後半から2028年1月頃を目安に開始される見込みとされています。ただし、これらのスケジュールはあくまで現時点の報道・観測に基づくものであり、今後の議論の進展によって前後する可能性がある点には注意が必要です。

見直しの方向性として示されているポイント

国税庁が示しているとされる見直しの基本的な観点としては、次のような内容が挙げられています。会社の規模区分の境界で評価額が急激に変動する、いわゆる評価額の「崖」を解消すること、配当・利益操作などを通じた恣意的な評価圧縮を防ぐこと、現在の金利環境を踏まえて配当還元方式の還元率など各種係数を見直すこと、そしてM&A(第三者への事業承継)における実際の企業価値評価の考え方を、相続税評価にも一定程度反映させることなどです。全体としては、類似業種比準方式による評価額が、現在よりも純資産価額方式の水準に近づく方向、つまり評価額が引き上げられる方向で調整が検討されているとみられています。

事業承継への影響と今からできる対策

仮に評価額が引き上げられる方向で見直しが行われた場合、特に類似業種比準方式のウエイトが高い大会社・中会社を中心に、将来の相続税・贈与税の負担が増加する可能性があります。自社株式を後継者に生前贈与したり、事業承継税制(特例措置)を活用して納税を猶予したりする対策を検討している経営者にとっては、現行ルールが適用されるうちに対策を実行できるかどうかが、今後の税負担を左右する重要なポイントになります。特に事業承継税制の特例措置は、既に一定の申請期限が設けられている制度であるため、自社の状況を踏まえて期限や手続きを確認しておくことが重要です。今からできる対策としては、まず現行ルールに基づく自社株式の評価額を専門家に試算してもらい、現状を正確に把握すること、そのうえで生前贈与や株価対策、事業承継税制の活用などの選択肢を、制度改正のスケジュールも踏まえて早めに検討することが挙げられます。

まとめ

非上場株式の相続税評価ルールは、評価方式間の格差や制度の硬直化を背景に、約60年ぶりとなる大規模な見直しが進められています。2026年の有識者会議での議論を経て、2027年度の税制改正、2028年頃の適用開始が見込まれており、評価額は全体として引き上げられる方向で調整される可能性があります。中小企業のオーナー経営者は、現行制度下での自社株評価額を早めに把握したうえで、事業承継税制の活用や生前対策のタイミングについて、税理士など専門家に相談しながら検討を進めることが望まれます。

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