自社株を次男に渡したい父vs納得できない長男——事業承継のリアルな対立
※本記事は、相続で起こりやすいトラブルを分かりやすく解説するための架空事例です。実在の人物・団体・事案とは関係ありません。
「会社は次男の哲也に継がせる。それだけは譲れない」
創業社長の佐藤一郎さん(74歳)は以前からそう言い続けてきました。長男の博さん(46歳)はサラリーマンとして別の道を歩んでいましたが、父が亡くなった後、自社株の評価額が約1億円と判明すると態度が変わりました。「自分の相続分はどうなる?」と強く主張し始めたのです。
なぜトラブルになったのか
自社株は「会社の経営権」ですが、相続財産としての評価額も持ちます。法定相続分で計算すると、博さんにも数千万円相当の取り分がある計算です。しかし哲也さん(後継者)には、会社経営上、株式を分散させたくないという事情がありました。
何が問題だったのか
① 自社株は「経営権」と「財産権」の二面性を持つ
自社株は相続財産の一部として扱われます。後継者以外の相続人も「法定相続分」や「遺留分」に応じた財産請求ができます。株式が分散すると、後継者が経営上の意思決定をしにくくなる場合があります。
② 遺留分の問題
「全株式を哲也に」という遺言があっても、博さんには遺留分があります。遺留分相当額が自社株で支払われると、経営権が分散するリスクも。2019年の民法改正後は遺留分は「金銭請求」のみになりましたが、会社に現金がなければ問題は残ります。
③ 株価対策をしていなかった
相続税評価額が高い自社株は、承継コストが大きくなります。生前から計画的に株価を引き下げる対策(利益の調整、持株会の活用など)や、生前贈与・事業承継税制の活用が必要でした。
実務上どう考えるべきか
事業承継は「誰に継がせるか」と同時に「他の相続人にどう財産を手当てするか」をセットで考える必要があります。後継者には自社株を集中させ、他の相続人には現金・不動産・生命保険などで相続財産を手当てするのが基本的な設計です。
事前にできる対策
- 早期に事業承継計画を作成し、後継者・他の相続人の役割分担を明確にする
- 事業承継税制(贈与税・相続税の納税猶予制度)の活用を検討する
- 生命保険で非後継者への代償財産を準備する
- 株価引き下げ対策を計画的に実施する(税理士・弁護士と連携)
- 公正証書遺言で後継者への株式承継を明確にしておく
まとめ
自社株をめぐる相続トラブルは、会社経営と家族関係の両方を損ないます。事業承継は「いつか考える」ではなく、経営者が元気なうちから専門家と計画を立てるべき最重要課題です。


