土地の無償返還期限を迎えた時の対処方|打ち切り・期間更新・買取りの実務と税務上の注意点
親族や法人が土地を無償(または低廉な地代)で貸借する場合、「借地権の無償返還に関する届出書」(以下、無償返還届出書)を税務署に提出し、将来的に土地を無償で返還することを約束するケースがあります。この無償返還届出書には期限の定めはありませんが、実務上は土地賃貸借契約に定められた「契約期間」が終了するタイミング(無償返還の期限)が到来することがあります。この時、地主・借地人ともに適切な対応が求められます。本記事では、無償返還の期限(契約満了)を迎えた時の選択肢と実務上の対処方、税務上の注意点について解説します。
無償返還届出書とは(おさらい)
無償返還届出書とは、地主(賃貸人)と借地人(賃借人)が連名で税務署に提出する届出書で、土地の賃貸借において権利金を授受せず、将来土地を無償で返還することを約束するものです。この届出書を提出しておくことで、権利金の認定課税(贈与税等)を避けることができます。
無償返還届出書が提出されている場合、賃貸している土地の相続税評価は「自用地評価額×80%」(借地権割合を控除した後、さらに一定の調整が行われる)となります。また、借地人側では借地権が計上されません。この税務上の取り扱いは、届出書が提出されている限り継続されます。
無償返還期限(契約満了)を迎えた時の3つの選択肢
土地賃貸借契約の期間が満了し、無償返還の期限を迎えた時には、大きく分けて以下の3つの対応が考えられます。
①契約を更新して賃貸借を継続する
最も一般的な対処方は、地主と借地人が合意の上で土地賃貸借契約を更新し、引き続き賃貸借を継続することです。契約を更新する場合は、新たな賃貸借契約書を作成し直すことが望ましいです。更新後も引き続き無償返還届出書の内容が有効であることを確認します。
更新の際には、地代の見直し(相当の地代・通常の地代の水準が変わっていないか確認)、契約期間の再設定(次回の満了時期を明確にする)、その他条件の見直し(建物の増改築条件、転貸条件等)を行うことが重要です。また、相続が発生して地主が変わっている場合は、新地主との間で改めて契約書を作成します。
②土地を返還して賃貸借を終了する(打ち切り)
借地人側で事業や賃貸経営を終了する場合、または地主側が土地を利用したい場合には、賃貸借を終了させて土地を地主に返還することになります。無償返還届出書の内容に従い、建物を解体撤去した上で更地に戻して返還するのが原則です。
税務上の注意点:土地の返還にあたり、借地権の無償返還が行われる場合、原則として課税関係は生じません(無償返還届出書を提出している場合は借地権が存在しないため)。ただし、建物を解体せずに地主に買い取ってもらう場合は、その建物の売買価格が時価かどうかが問題となる場合があります。また、建物解体費用の負担者(借地人か地主か)についても契約書で明確にしておく必要があります。
③建物ごと地主が買い取る
借地人が建物を解体せず、地主が建物ごと買い取るという対処方もあります。この場合、建物の売買については時価での取引が原則です。親族間での売買の場合は時価かどうかが問題になりやすいため、不動産鑑定士による鑑定評価を取得するなど、適正価格を明確にしておくことが重要です。
税務上の注意点:借地人(売主)には、建物の売却による譲渡所得税が課税される可能性があります。売却価格と取得費(建物の購入・建築費用から減価償却費を控除した残額)の差額が譲渡所得となります。特に、建物が古く取得費が低い場合は、譲渡益が大きくなる可能性があります。
契約更新時の実務上のポイント
新たな賃貸借契約書の作成
契約を更新する際は、旧契約書をそのまま延長するのではなく、新たな賃貸借契約書を作成することをお勧めします。契約期間・地代・解約条件・返還時の処理方法など、現時点での合意内容を明確に記載します。また、地主・借地人が変わっている場合(相続等による変更)は、新たな当事者間で契約書を締結し直します。
無償返還届出書の扱い
既に提出済みの無償返還届出書は、原則として一度提出すれば継続的に有効です。契約更新のたびに新たに提出し直す必要はありませんが、地主や借地人が変わった場合(相続・法人の合併等)は、改めて届出書を提出することが望ましいとされています。税務署に確認の上、必要に応じて改めて届け出ることを検討してください。
地代の見直しと税務上の取り扱い
契約更新のタイミングで地代を見直す場合は、税務上の地代水準(相当の地代か通常の地代か)との関係を再確認します。地代の水準が変わることで、無償返還届出書の税務上の取り扱いが変わる場合があります。たとえば、通常の地代(固定資産税の2~3倍程度)から相当の地代(更地価格の6%程度)に変更する場合は、変更後の取り扱いについて税理士に確認することが重要です。
相続発生後に期限が到来した場合の注意点
地主(親)の相続が発生した後に無償返還の期限(契約満了)が到来するケースでは、相続人(子)が新地主として賃貸借を継続するか否かを判断することになります。相続によって地主が変わった場合は、速やかに借地人に通知し、新たな賃貸借契約書を作成することが望ましいです。
また、複数の相続人が存在する場合、土地を誰が相続するかによって賃貸借の継続の可否や条件が変わる可能性があります。遺産分割が完了していない状態で契約満了を迎えた場合は、相続人全員の合意の下で暫定的な契約継続を行うとともに、早期に遺産分割を完了させることが重要です。
法人が借地人の場合の特別な注意点
借地人が個人ではなく法人(同族会社等)の場合、無償返還の期限到来時の対応は個人の場合と異なる点があります。法人が土地を返還する場合、借地権の帳簿価額がある場合はその処理(損失計上等)が必要になります。また、地主が法人の役員・株主等である場合、返還に際して経済的利益の授受があると判断される場合は、給与所得・役員報酬等として課税される可能性があります。法人が関係する無償返還の期限到来については、必ず税理士に相談することをお勧めします。
まとめ
土地の無償返還の期限(賃貸借契約の満了)を迎えた時の対処方は、①契約更新による継続、②土地の返還(打ち切り)、③建物ごとの買取りの3つが基本的な選択肢です。いずれを選択するにしても、新たな契約書の作成、地代水準の確認、無償返還届出書の扱い、相続人の確認など、実務上の対応が必要になります。また、税務上の影響(譲渡所得税・贈与税・相続税)も選択する対処方によって大きく異なります。無償返還の期限到来が見込まれる場合は、早めに税理士・司法書士等の専門家に相談し、最適な対処方を検討することをお勧めします。


