親族から土地を借りてアパートを建てる場合の実務|土地賃貸借契約のポイントと注意点
親族(親・兄弟など)が所有する土地を借りて、その上にアパートを建築して賃貸経営を行うケースがあります。このような場合、土地の権利関係を明確にするため「土地賃貸借契約書」を作成することが非常に重要です。口頭での合意や曖昧な取り決めのままにしておくと、将来的に相続が発生した際や、親族間での認識の違いが生じた際にトラブルになる可能性があります。本記事では、親族から土地を借りてアパートを建てる場合の実務上のポイントと、土地賃貸借契約書の注意点について詳しく解説します。
土地賃貸借契約の基本と種類
土地を借りてその上に建物を建てる権利は「借地権」と呼ばれます。借地権には大きく分けて「借地借家法による借地権」と「民法上の賃貸借」があります。通常、アパート建築を目的として長期にわたって土地を使用する場合は、借地借家法に基づく「普通借地権」または「定期借地権」を設定することになります。
普通借地権
普通借地権は、契約更新が認められる借地権です。最初の契約期間は30年以上と定める必要があり、更新後は最初の更新で20年、以降は10年ごととなります。借地人(土地を借りる側)の保護が手厚い制度で、地主(土地を貸す側)の都合だけで契約を終了させることが難しい仕組みになっています。親族間であっても、普通借地権を設定すると地主が土地を取り戻すことが困難になる点に注意が必要です。
定期借地権
定期借地権は、契約期間が満了すると更新なく終了する借地権です。主な種類として「一般定期借地権(50年以上)」「事業用定期借地権(10年以上50年未満)」「建物譲渡特約付き借地権(30年以上)」があります。アパート経営の場合は一般定期借地権が使われることが多く、50年以上の契約期間を設定します。契約期間満了時には建物を取り壊して更地で返還するのが原則です。親族間での土地貸借には、将来の土地返還を前提とした定期借地権を選択するケースも増えています。
親族間の土地賃貸借における重要なポイント
地代の設定(適正な地代の重要性)
親族間の取引であっても、地代は適正な金額を設定することが極めて重要です。地代を無償(使用貸借)にしたり、著しく低い金額にした場合、税務上の問題が生じる可能性があります。特に、親から子に無償または低廉な地代で土地を貸す場合、借地権相当額の贈与があったとみなされるリスクがあります。「使用貸借」(無償での貸借)の場合は借地権が発生しないため、相続税評価上は地主(親)の土地評価が自用地評価額となります。一方、通常の地代を収受している場合は借地権が発生し、相続税評価額が変わります。土地の使用形態によって相続税の評価も大きく異なるため、事前に税理士に相談することをお勧めします。
「相当の地代」と「通常の地代」の違い
税務上、親族間の土地賃貸借においては地代の水準が重要な意味を持ちます。「相当の地代」とは、その土地の更地価格の6%程度(年額)とされており、この水準の地代を支払う場合は借地権の贈与税課税は生じないとされています。一方、通常の地代(固定資産税の2〜3倍程度)を支払う場合は、差額に相当する借地権(権利金)について贈与税の問題が生じる場合があります。このような場合、「借地権の無償返還に関する届出書」を税務署に提出することで一定の対応が可能です。いずれの方法が適切かは個別の状況によって異なるため、専門家に相談することが重要です。
「無償返還届出書」の活用
親族間で土地を貸し借りする場合、将来的に土地を無償で返還することを確約した上で「借地権の無償返還に関する届出書」を税務署に提出する方法があります。この届出書を提出することで、権利金(借地権相当額)を授受しないことによる贈与税の問題を回避できます。この場合、貸している土地の相続税評価は「自用地評価額×80%」(借家建付地評価の計算を経た後)となります。無償返還届出書を活用するかどうかは税務・法律両面からの検討が必要です。
土地賃貸借契約書に記載すべき主な事項
親族から土地を借りてアパートを建てる場合、以下の事項を盛り込んだ土地賃貸借契約書を作成することが重要です。
契約の基本事項
土地の所在地・地番・地目・面積を明記します。地主(貸主)と借地人(借主)の氏名・住所を記載し、双方が署名・捺印します。契約の目的(建物の種類・構造・用途など)も明確に記載します。建物の種類として「共同住宅(アパート)」などと記載し、どのような用途の建物を建てるのかを明確にします。
契約期間と更新
契約期間を明記します。普通借地権であれば30年以上、定期借地権であれば50年以上などと定めます。定期借地権の場合は「更新のない借地権」であることを契約書に明記し、公正証書による作成が必要となります(事業用定期借地権の場合は公正証書での作成が法律上の要件)。
地代の金額・支払方法・改定
地代の金額は月額または年額で明記します。支払方法(振込先・支払期限等)も明確にします。また、地代の改定条件(インフレや固定資産税の変動に応じて改定できる旨など)も盛り込んでおくと良いでしょう。改定の際は双方の合意が必要であることも記載します。
建物の建築・増改築
建物の建築に関する条件を記載します。増改築や建て替えを行う際に地主の承諾が必要であることも明記しておきます。建物の構造・規模の変更条件についても合意しておくと後々のトラブルを防げます。
契約終了時の処理
契約が終了した場合の取り決めを明確にします。定期借地権の場合は、原則として借地人が建物を解体撤去して更地で返還する義務があります。建物の解体費用負担についても明確にしておくことが重要です。場合によっては建物を買い取る旨の特約(建物買取請求権の排除または付与)を設けることもあります。
転貸・借地権の譲渡
第三者への転貸や借地権の譲渡については地主の承諾が必要である旨を明記します。アパートの賃貸(建物内の区画を第三者に貸すこと)は通常の転貸には当たらないため問題ありませんが、土地ごと第三者に転貸したり、借地権を売却・譲渡する場合は地主の承諾が必要です。
相続発生時の注意点
親族間の土地賃貸借においては、地主(親)の相続が発生した場合に注意が必要です。相続によって土地は相続人(子・孫等)が取得しますが、借地権は存続します。複数の相続人がいる場合は遺産分割により誰が土地を相続するかを決め、その相続人が新たな地主となります。
重要なのは、相続発生前に土地賃貸借契約書が適切に作成されているかどうかです。書面がなく口約束だけの場合、相続人が「そのような契約は知らない」と主張するリスクがあります。また、地代の振込記録など客観的な証拠を残しておくことも重要です。
相続税の計算においても、土地賃貸借の内容(使用貸借か通常の賃貸借か、相当の地代を収受しているかなど)によって評価額が大きく変わります。相続税の観点からも土地賃貸借契約の内容を適切に設計することが重要です。
契約書の作成と公正証書化
土地賃貸借契約書は書面で作成し、双方が署名・捺印することが基本です。親族間であっても、後のトラブル防止のために正式な書面を作成することが重要です。特に定期借地権のうち「事業用定期借地権」については、法律上、公正証書での作成が義務付けられています(借地借家法第23条)。
また、一般定期借地権については公正証書での作成は義務ではありませんが、公正証書にしておくことで契約内容の信頼性が高まり、将来のトラブル防止に有効です。公正証書の作成には公証役場に出向く必要があり、費用(公証人手数料)がかかりますが、長期の重要な契約であることを考えれば、その手続きをとる価値は十分にあります。
専門家への相談の重要性
親族から土地を借りてアパートを建てる場合は、法律・税務の両面から専門家のサポートを受けることが重要です。契約書の作成については弁護士や司法書士に相談することをお勧めします。また、地代の設定や相続税への影響については税理士に相談することが不可欠です。特に、権利金の授受・無償返還届出書の提出・地代の水準などは相続税に大きく影響するため、早い段階からの専門家への相談が重要です。アパート建築の資金計画(融資)にあたっては、金融機関も借地権の種類や契約内容を確認します。普通借地権か定期借地権かで融資の可否や条件が変わることもあるため、金融機関とも事前に相談しておきましょう。
まとめ
親族から土地を借りてアパートを建てる場合は、土地賃貸借契約書を必ず作成し、借地権の種類・地代の水準・契約期間・契約終了時の処理などを明確に定めることが重要です。また、税務上の問題(贈与税・相続税)にも細心の注意が必要であり、「無償返還届出書」の活用や適正な地代の設定について専門家(税理士)に相談することをお勧めします。親族間の取引は信頼関係があるがゆえに書面化が後回しになりがちですが、将来の相続発生時や状況の変化に備えて、しっかりとした契約書と税務上の対応を整えておくことが大切です。


