父が亡くなる前に預金を引き出した兄——疑惑が家族を崩壊させたケース
※本記事は、相続で起こりやすいトラブルを分かりやすく解説するための架空事例です。実在の人物・団体・事案とは関係ありません。
「お父さんの口座、残高がほとんどないんだけど……」
相続手続きのために通帳を確認していた二女の由美子さん(48歳)は、目を疑いました。父・正雄さんが亡くなる直前の2年間で、口座から合計800万円近くが引き出されていたのです。同居していた長男の和也さん(53歳)が管理していた口座でした。
なぜトラブルになったのか
由美子さんが和也さんに問い合わせると「父の生活費や医療費に使った」と説明。しかし具体的な領収書や記録は出てきませんでした。「本当に父のために使ったの?」という疑念が膨らみ、遺産分割の話し合いどころではなくなってしまいました。
何が問題だったのか
① 財産管理の透明性がなかった
認知症が進んだ親の財産を子どもの一人が管理する場合、記録を残さないと後々「使い込み」の疑いをかけられます。たとえ善意で管理していたとしても、証拠がなければ疑惑は晴れません。
② 使い込みの証明と法的対応
使い込みが疑われる場合、他の相続人は「不当利得返還請求」や「不法行為に基づく損害賠償請求」を行うことができます。ただし、立証は請求する側が行う必要があり、通帳の取引履歴・介護記録・領収書などの証拠収集が重要になります。
③ 遺産分割協議が機能しなくなる
使い込み問題が発覚すると、当事者間での協議は事実上不可能になります。家庭裁判所の調停や審判、さらには訴訟に発展するケースも少なくありません。
実務上どう考えるべきか
疑惑が生じた場合、感情的に責め立てるのではなく、まず弁護士に相談して証拠の確認と法的手段を整理しましょう。また和也さん側も、管理の透明性を示す書類を揃えることが誠意ある対応です。早期に第三者(弁護士・司法書士)を介することで、泥沼化を防げます。
事前にできる対策
- 親の財産を管理する場合は、必ず記帳・領収書保管・家族への報告を習慣化する
- 家族信託や任意後見契約を活用し、第三者機関による透明な管理体制を作る
- 親が元気なうちに、財産目録を作成して家族全員で共有しておく
まとめ
財産管理の不透明さは、善意であっても家族の疑心暗鬼を生みます。「記録を残す」という習慣が、相続トラブルを防ぐ最も地味で確実な方法です。疑惑が生じてしまった場合は、早めに専門家へ相談することをお勧めします。


