遺言書があったのに、なぜか家族がもめた理由
※本記事は、相続で起こりやすいトラブルを分かりやすく解説するための架空事例です。実在の人物・団体・事案とは関係ありません。
「お父さんの遺言書が見つかりました」
松本家の子どもたち3人が実家に集まったのは、父・義雄さん(享年82歳)の四十九日が過ぎた頃でした。封を開けると、そこには「全財産を長男・浩二に相続させる」という一文が。次女の麻子さんと三男の隆さんは、驚きと怒りで言葉を失いました。
なぜトラブルになったのか
遺言書は義雄さんが自筆で書いたものでした(自筆証書遺言)。法的には有効と判断されましたが、次女と三男には「遺留分」があります。遺留分とは、法定相続人が最低限受け取れる財産の割合で、今回の場合は法定相続分(各3分の1)の2分の1、つまり各6分の1の請求権があります。
浩二さんは「遺言書通りに全部もらう」と主張。麻子さんと隆さんは遺留分侵害額請求権(かつての遺留分減殺請求)を行使することを決め、法的手続きへ発展しました。
何が問題だったのか
① 遺留分を無視した遺言内容
遺言で「全財産を一人に」と書いても、他の相続人の遺留分は消えません。遺留分を侵害された相続人は、侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます(2019年の民法改正後は金銭請求のみ)。
② 遺言書の理由や背景が伝わっていなかった
なぜ長男だけに全財産を? その理由を義雄さんは遺言書に書いていませんでした。「自分たちは軽く見られていた」と感じた次女と三男の怒りは、財産以上に「気持ちの問題」でもありました。
③ 自筆証書遺言のリスク
自筆証書遺言は、手軽に書ける反面、形式不備(日付なし、全文自筆でないなど)で無効になることも。また家庭裁判所の「検認」手続きが必要で、発見が遅れると相続手続きが止まります。
実務上どう考えるべきか
遺言を作成する際は、遺留分を考慮した内容にすることが重要です。「長男に多く渡したい」という意思は尊重されますが、他の相続人への遺留分相当額は確保するか、「付言事項」として理由を記載することで、遺族の感情的な摩擦を和らげることができます。
事前にできる対策
- 遺言書を作成する際は、公正証書遺言を選ぶ(形式不備によるトラブルを防げる)
- 遺言書に「付言事項」として、財産分配の理由を記しておく
- 遺留分を侵害しないよう、財産の概算と法定相続分・遺留分を計算しておく
- 生命保険を活用し、遺留分相当額を現金で用意しておく
まとめ
遺言書は「もめないための手段」ですが、内容や伝え方を誤ると、かえって対立の火種になります。遺言は法律の専門家とともに作り、家族へその思いを伝えておくことが大切です。


