不動産売却時の取得費とは?|含まれるもの・計算方法・税務上の注意点を解説
取得費とは何か
不動産を売却したときに発生する譲渡所得税の計算において、取得費(しゅとくひ)は最も重要な要素のひとつです。取得費とは、売却した不動産を購入・取得した際にかかった費用の合計額のことであり、譲渡所得の計算式「譲渡所得 = 売却価格 − 取得費 − 譲渡費用」における控除項目として機能します。取得費が大きいほど譲渡所得は小さくなり、結果として納付する税額を抑えることができます。
取得費は所得税法第38条に規定されており、「資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額」と定義されています。ただし、建物については購入後に生じる減価償却費相当額を控除した後の金額(減価償却後取得費)が使用されます。
取得費に含まれるもの
取得費には、不動産の購入代金だけでなく、取得に要した付随費用も含まれます。主な項目は以下のとおりです。
購入代金(土地・建物の代金):売買契約書に記載された土地・建物の購入価格が基本となります。土地と建物が一体で取引された場合は、後述する按分方法で土地と建物に分けます。
仲介手数料:不動産会社に支払った仲介手数料は取得費に含まれます。売却時の仲介手数料は「譲渡費用」に分類されますが、購入時の仲介手数料は「取得費」となります。
登記費用(登録免許税・司法書士報酬):所有権移転登記にかかった登録免許税および司法書士への報酬は取得費に算入できます。
不動産取得税:取得時に納付した不動産取得税も取得費に含まれます。
印紙税:売買契約書に貼付した収入印紙の代金(印紙税)も取得費に含まれます。
設備費・改良費:取得後に行ったリフォームや増改築にかかった費用(設備費・改良費)は取得費に加算することができます。ただし、通常の維持管理費(修繕費)は取得費に含まれません。
造成費・測量費:土地の取得に際して行った造成工事や測量にかかった費用も取得費となります。
借入金の利子(取得前の分):不動産取得のために借り入れたローンの利子のうち、取得が完了するまでの期間に対応する部分は取得費に含めることができます(取得後の利子は含まれません)。
取得費に含まれないもの
取得費として計上できない費用もあります。誤って取得費に算入しないよう注意が必要です。
固定資産税・都市計画税:保有中に毎年支払う固定資産税・都市計画税は取得費ではなく、必要経費として別途取り扱います(ただし譲渡所得の計算には含まれません)。
取得後のローン利子:不動産ローンの利子のうち、取得後に支払った分は取得費に算入できません。
通常の維持管理費・修繕費:建物の維持管理にかかる日常的な修繕費(クロス張替、設備の修理など)は取得費に含まれません。ただし、増改築・大規模リフォームなどは資本的支出として取得費に加算できる場合があります。
立退料(他人に支払った場合):購入した不動産の借地人・借家人を退去させるために支払った立退料は、取得費に含めることができます。ただし、売却に際して支払った立退料は「譲渡費用」となります。
建物の取得費(減価償却後)の計算
土地と異なり、建物は時間の経過とともに価値が減少します。そのため建物の取得費は、購入時の建物価格から減価償却費相当額を差し引いた金額(減価償却後の取得費)を使用します。
計算式は以下のとおりです。
建物の取得費 = 建物の購入価格 × (1 − 0.9 × 償却率 × 経過年数)
償却率は建物の構造によって異なります。木造の場合は0.031、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC)・鉄筋コンクリート造(RC)の場合は0.015などが使用されます(非事業用の場合)。また、減価償却後の取得費が建物購入価格の5%を下回る場合は、建物購入価格の5%を下限として取得費に計上することができます。
相続・贈与で取得した不動産の取得費
相続や贈与によって取得した不動産を売却する場合、取得費の考え方が通常の購入と異なります。
相続で取得した場合:相続による取得の場合、被相続人(亡くなった方)が取得した時点での取得費がそのまま引き継がれます(所得税法第60条)。つまり、被相続人が昭和40年代に1,000万円で取得した土地を相続し、現在5,000万円で売却した場合、取得費は1,000万円(被相続人の取得費)となります。相続時の時価(相続税評価額)が取得費になるわけではありません。
相続税の取得費加算の特例:相続開始後3年10か月以内に相続財産を売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる「取得費加算の特例」があります。この特例を活用することで、譲渡所得税を大幅に軽減できる場合があります。
贈与で取得した場合:贈与によって取得した場合も原則として贈与者の取得費が引き継がれます。ただし、贈与税を支払っている場合は一定額を取得費に加算できる場合があります。
取得費の証明方法
取得費を正確に計算・申告するためには、購入時の書類を保管しておくことが重要です。主な証明書類は以下のとおりです。
売買契約書:購入価格・購入日・売主・買主などを確認できる最も重要な書類です。
領収書・請求書:仲介手数料・登記費用・不動産取得税・リフォーム費用などの領収書・請求書を保管しておきます。
登記簿謄本(登記事項証明書):取得年月日・取得経緯(売買・相続など)の確認に使用します。
相続関連書類:相続で取得した場合は、被相続人の購入時の売買契約書・相続税申告書の控えなども取得費の計算に必要となります。
まとめ
不動産売却時の取得費は、購入代金・仲介手数料・登記費用・不動産取得税・設備費・改良費など、取得に要した費用の合計額です。建物については減価償却費相当額を控除した後の金額を使用します。また、相続や贈与で取得した不動産の場合は被相続人・贈与者の取得費が引き継がれます。
取得費を正確に把握・申告することは、譲渡所得税の適正な計算に直結します。購入時の契約書・領収書類は必ず保管し、売却時には税理士に相談しながら申告を進めることを強くお勧めします。

