「10年間介護した私が多くもらって当然」——長女の主張は認められるのか

※本記事は、相続で起こりやすいトラブルを分かりやすく解説するための架空事例です。実在の人物・団体・事案とは関係ありません。

「私は10年間、仕事を辞めて母の面倒を見てきた。それなのに財産を均等に分けるなんておかしい」

木村家の長女・さちさん(58歳)は、弟の明さん(54歳)と妹の恵さん(50歳)を前に訴えました。母・よし子さん(享年88歳)の介護のため、さちさんは50代前半に仕事を辞め、実家に戻って10年近く献身的にケアをしてきました。遺産は約4,000万円。

なぜトラブルになったのか

弟と妹は「介護はさちが自分で決めたこと。法律上は3分の1ずつのはず」と主張。一方さちさんは「自分が介護に費やした時間とお金を考えると、納得できない」と強く反発。協議は行き詰まりました。

何が問題だったのか

① 「寄与分」は認められるか?

民法では、被相続人の療養看護に努め、財産の維持・増加に特別な貢献をした相続人には「寄与分」が認められる場合があります。ただし以下の要件が必要です。

  • 療養看護が「特別の貢献」であること(通常の親族間の扶養義務の範囲を超えること)
  • 継続性・専従性があること
  • 財産の維持・増加に貢献していること(介護費用を節約した分など)

さちさんのケースは認められる可能性がありますが、具体的な金額の算定には介護の内容・時間・専門職を雇った場合のコストなどを計算する必要があります。

② 「特別寄与料」——相続人以外でも請求できる

2019年の民法改正で、相続人でない親族(例:長男の妻)も「特別寄与料」を請求できるようになりました。介護した実績がある方は、専門家に相談する価値があります。

③ 感情と金額の乖離

さちさんの「10年間の苦労」は計り知れませんが、法律上の寄与分として算定される金額は、期待より低いことも。感情的な満足と法的な解決の間にギャップが生じやすいのが、介護トラブルの難しさです。

実務上どう考えるべきか

介護の記録(日誌、領収書、ヘルパーの利用記録など)を残すことが非常に重要です。また、介護が始まる前に親を交えた家族会議を開き、「介護した人への還元方針」を文書化・遺言化しておくことが根本的な解決策です。

事前にできる対策

  • 介護が始まる時点で、家族全員で「介護負担と相続の関係」を話し合う
  • 介護をする子へ生前贈与を行う、または遺言書で多めに渡す旨を記載しておく
  • 介護日誌・支出記録を残して寄与分の根拠を作っておく

まとめ

介護した人が「報われた」と感じられる相続のあり方は、生前の対話と準備でしか実現できません。親が元気なうちに、家族全員で「介護と相続」を正面から話し合うことが、最大のトラブル防止策です。

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