無償返還の届出が出された底地を売却した場合の実務|譲渡承諾・売却価格・税務処理を解説
無償返還の届出が提出された底地(地主が所有する土地の所有権部分)を第三者に売却する場合、通常の土地売却とは異なる実務上の手続き・税務処理・価格設定が必要になります。本記事では、無償返還の届出がある底地を売却する際の実務の流れを、譲渡承諾・売却価格・税務処理の各観点から詳しく解説します。
無償返還の届出がある底地の特徴
無償返還の届出がある土地は、法人等(借地人)に貸し付けられており、将来無償で返還することが税務署への届出によって約束されています。この場合、借地権は発生しないものとして扱われるため、地主(個人)が底地を第三者に売却しようとする際には、通常の借地権付き底地の売却とは異なる点が多くあります。
底地売却の実務の流れ
①借地人への通知と譲渡承諾
底地(土地所有権)を第三者に売却する場合、地主は原則として借地人の承諾を得る必要はありません。底地は地主固有の財産であり、土地所有権の売却に借地人の同意は不要です。ただし、実務上は以下の点から借地人への事前通知や協議が重要です。
- 買い手が底地を取得した後に借地人との賃貸借関係を適切に引き継ぐためには、既存の賃貸借契約・無償返還の届出の内容を正確に伝える必要があります。
- 借地人が底地を優先的に買い取る「先買権」を有する場合(契約書に定めがある場合)には、事前に借地人への売却の申し出が必要です。
- 借地人との関係悪化を避け、スムーズな売買・引渡しを実現するために、事前協議が実務上の慣行となっています。
②無償返還の届出の引き継ぎ
底地を第三者に売却した場合、無償返還の届出の効力はどうなるでしょうか。税務上の取り扱いとして、無償返還の届出はあくまで「土地を貸している地主と借地人の間の約束」として機能しています。底地の新所有者(買い手)が引き続き同じ条件で賃貸借を継続する場合、原則として無償返還の届出の効力は引き継がれます。ただし、新所有者が個人か法人かによって取り扱いが変わる可能性があるため、売買契約時に税理士や税務署に確認することが重要です。
③売却価格の設定
無償返還の届出がある底地の売却価格は、通常の更地価格よりも低くなります。その理由は、買い手が底地を取得しても、借地人が土地を利用しているため自由に使用・処分できないためです。一般的な底地の売却価格の目安は次の通りです。
無償返還の届出がある底地は、相続税評価上は「自用地評価額×80%」で評価されます。しかし実際の市場での売却価格はさらに低くなることが多く、自用地価格の50〜70%程度が目安とされています。借地人との関係性・契約残存期間・土地の立地条件・地代収入の水準などによって価格は大きく変動します。借地人が買い手となる場合(借地人への売却)は、借地人にとって底地を取得することで完全所有権が成立するため、第三者への売却価格より高い水準で交渉が成立することがあります。
④売買契約の締結と引渡し
底地の売買契約書には、以下の事項を明記することが重要です。売買の対象となる土地の表示(地番・地積・現況)、現在の賃貸借契約の内容(賃借人の情報・地代・契約期間・無償返還の届出の有無)、引渡し後の賃貸借関係の引き継ぎに関する事項、敷金・保証金の引き継ぎに関する事項などを明確に記載します。
売却時の税務処理
地主(売り手・個人)の税務
底地を売却した場合、地主(個人)には譲渡所得税が課されます。譲渡所得の計算は「売却価格-(取得費+譲渡費用)」で求めます。取得費については、土地の購入代金・取得時の諸費用が該当します。無償返還の届出がある場合でも、底地の取得費は通常の土地と同様に計算します。保有期間が5年超の場合は長期譲渡所得(税率20.315%)、5年以内は短期譲渡所得(税率39.63%)が適用されます。
また、底地売却時の譲渡所得の計算において、無償返還の届出がある土地は「借地権が付着していない底地」として扱うため、借地権部分を控除する必要はありません。売却価格の全額が底地の売却対価として取り扱われます。
借地人(法人)への影響
底地が第三者に売却されても、無償返還の届出の効力が継続する限り、借地人(法人)の税務上の取り扱いに直接の影響はありません。借地権は引き続き発生しないものとして扱われます。ただし、新しい地主(底地の買い手)との賃貸借関係の確認・契約の巻き直しなどの手続きが必要になる場合があります。
みなし贈与・低額譲渡への注意
底地を著しく低い価格で第三者(特に同族関係者や親族)に売却した場合、時価との差額が「みなし贈与」として贈与税の課税対象となる可能性があります(相続税法7条)。また、法人への低額譲渡の場合は、時価との差額が売り手の一時所得または給与所得とみなされる可能性があります。売却価格の設定は適正価額(時価)に基づくことが原則であり、不当に低い価格での売却は税務リスクが生じます。
借地人への売却(合理的なケース)
無償返還の届出がある底地の売却において、最も合理的な相手は借地人(法人)自身です。借地人が底地を取得することで「完全所有権」が成立し、双方にとってメリットがあります。地主にとっては、第三者売却より高い価格での売却が期待でき、借地人との関係を円満に終了できます。借地人にとっては、完全所有権を取得することで自由に土地を活用できるようになり、相続税評価上も有利になります。この場合の売却価格は、自用地評価額の60〜80%程度が実務上の目安となりますが、当事者間の交渉によって決まります。税務上は適正価額(時価)での取引が求められます。
まとめ
無償返還の届出が出された底地を売却する場合、借地人への通知・価格設定・無償返還の届出の引き継ぎ・税務処理のいずれも通常の土地売却とは異なる点があります。特に売却価格の設定と税務処理については専門家(税理士・不動産鑑定士)への相談が不可欠です。売却の際は事前に十分な準備と専門家への相談を行い、適正な手続きで進めるようにしましょう。

